Column

~心育としての禅語~

ある日のこと「先生!みんなの上履き揃えたよ。きゃっかしょうこ(脚下照顧)したよ」夕方フェンネルで過ごす際に年長さんのA君が清々しい笑顔でその行いを禅語と共に伝えてくれました。

禅語を子どもにわかりやすく説いた「心をつよくする禅語」という本を用いて朝の会で一日一句紹介する活動を始めて3年目になります。そこで知り得た禅語の内容を意識して一日を過ごし、その振り返りを年長さん中心に帰りの会で行っています。このA君の振る舞いは禅語が少しずつ子どもたちの中に浸透してきたことを示唆するもので、その誇らしげな姿を見ながらじんわりとくる嬉しさを感じました。


禅語の源の禅宗は飛鳥時代(AD700年)に中国から日本に伝えられたそうです。禅語とは禅宗の僧侶達の逸話や経典などから選び取られたことばです。日本人の生活に根ざしたことばや教えが多くあり、それは宗教を超えて昔も今も人の心の在り方や生き方の指標になっています。「主人公」「挨拶」「縁起」「慈愛」「我慢」など生活の中で日常用語となっているものから「至誠一貫」「老婆親切」「一行三昧」など四字熟語で表されているもの、また短い一文のものと数限りなくあります。


子ども達に紹介する際にはこの形態のまま漢字をボードに書き表して伝えています。

ところで禅語は漢字であるし小学校就学前は難しいのでは?と思われる方もいらっしゃるかと思います。確かに「読み、書き」としての文字を正しく知る、理解するという目線から考えるとこの年代の子ども達には困難です。しかし視覚に敏感なこの時期の子ども達は漢字を図形や絵に近いものとして感覚で捉えることが出来ますので、繰り返すうちに自然に形として入っていく様子が見られます。そこに冒頭の「脚下照顧」でしたら「玄関で靴を揃えるようにまずは自分を見つめ直そう」と子ども向けに訳した意味をあてがって紹介します。またときには漢字の成り立ちに注目して「脚」+「下」で足元、「照」は明るく照らすこと、「顧」は顧みる=振り返ることと漢字そのもののもつ意味をサラッと伝えています。


この先、子ども達は数えきれないほどの嬉しいことや楽しいことは勿論、悲しいことや辛いこと時には悔しかったりすることと、さまざまな感情と向き合いながら成長を重ねていくことでしょう。その時に原体験としての禅語を思い出して「今の自分の気持ち」を抱きしめて前進していってくれたなら・・・という願いを込めてこれからも子どもたちと共に禅語に触れていきたいと思います。


2018年7月

矢﨑